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銅版画

刷ってみよう!
D-3.色版を刷ってみる!

多版多色刷り(色版から墨版まで一気に刷り上げる方法)

■色インクを用意します

使いたい色に合わせて、色インクを混色し、用意します。 練った色インクはヘラ、綿棒と一緒にサランラップに包んでおくと便利です。

ここでは多版多色刷りで例に上げた「4版4色刷りのメゾチント」を作例にしています。

この場合、メゾチントの広いトーンの幅、重ねの調整を活かし、混色は必要なくほぼ原色と言える、春蔵インクの「スカイブルー」「クリムソン」「レモン」の重ねで表現します。墨版はシャルボネール社の缶のインク55985を使います。

■墨版(主版)、色版、すべてにインクを詰め、拭き取ります。

このやり方では色版から墨版まで、一気に刷り上げてしまう方法をとっています。

刷っている間は紙が乾燥してはいけませんので、刷りの前最初に、全部の版を拭き上げてしまいます。拭き方は基本の刷りと同じです。色版1版に2〜3色つかう詰め分けをやりたい方は、綿棒などを用意して、色が混ざらないように拭き上げます。

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1版目(青・スカイブルー)

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2版目(赤・クリムソン)
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3版目(レモンイエロー)
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■湿した紙をベッドプレートにセット

ベッドプレートには前ページで説明した見当フィルムを置いておきます。見当の上に、だいたい版が紙の中央にくるように、紙をセットします。

ここまでの過程も、基本の刷りと全く同じです。

■プレスを少し回して、紙の端っこがプレスのローラーに挟まれる位にします。

この見当合わせのやり方では、紙は色版、墨版と刷り重ねていく時に、けっしてプレスのローラーから完全に抜いてはいけません。

紙は常にプレスに端っこをかませたまま、版を交換して刷っていきます。

つまり、紙の位置は刷っている間、常に同じ位置にある、という理屈ですね。

刷りはじめるときも、まず紙の端っこをローラーにかませておいて、1版目の版をベッドプレートにセットします。

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刷り始めの状態

■銅版をベッドプレートにセット

見当に書いた外枠に銅版がズレないようにセットします。(外見当の場合)

見当フィルムの中心線が、ぴったり銅版のプレートマークの点4つにあうよう、慎重に版をセットします。(4点見当の場合)

刷る版の順番は、一般的には薄い色から刷り重ね、決定的な墨版は一番最後というのが普通です。

作例では、墨版の刷りを重視して、なるべくベタッと沢山の範囲でインクの乗らないレモンイエローの版を墨版の直前に持ってきています。

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プレートマークの
見当の点が
フィルムの中心線にぴったりあうよう
銅版をセット

■色版を刷る

刷る紙によっては、色版を刷る時に若干圧を緩めにしておくと、墨版の時に完全に紙の目がつぶれて、刷りが悪くなるのを防ぐ事ができます。ベラン・アルシュのような強靭な紙は必要ありませんが、ハーネミューレのように柔らかめの紙に刷る時は、少し緩めの圧で色版を刷ったほうが良いかも知れません。

ゆっくりとプレスを回し、色版を刷り上げます。この時いつものように、プレスを端まで回しきってはいけません。紙の端っこがプレスにかんで動かない位まで回します。(永沼版画アトリエで使っている油圧プレスの場合は圧メーターの変化で紙が噛んでいるかわかる。一旦完全に紙が抜けるまで回してから戻す方法もある)

紙がちゃんとローラーにかんでいるかどうか確認したうえで、紙をローラーに巻き上げます。そして、版をベットプレートからはずします。

色版が2枚なら、また2枚目の銅版をセット。そして、今度は逆向きにプレスを回し刷っていきます。

色版が3枚なら、同じことを3回繰り返します。

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1版目を刷り終えた状態。
紙はローラーにかませたまま、
銅版だけを2版目に取り換える。
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2版目を刷り終えた状態。 irohan36
3版目を刷り終えた状態。

■すべての版を刷り終えて、完成!!

3版の版画なら、プレスは1往復半、4版の版画なら、プレスは2往復半移動することになります。

プレスを回すときは、1版の版画の時より慎重に、ゆっくりと回すようにしましょう。どうしても紙がプレスされている間伸びたりゆがんだり、しわが出来やすい状態になっているからです。ゆっくりプレスを回すことによって、しわなどのトラブルを回避できます。

刷り終ったら、基本の刷りと同じく、水張り。感動の一瞬ですね〜〜

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刷り上がり

完成!!

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4版4色刷りのメゾチント作品

いったん色インクを乾かす場合

■色版だけ刷ったあと、水張りをして色インクを乾かす

色版をいったん乾かしてから、墨版を刷り重ねる場合です。

D-2.見当の付け方で解説したように、いったん刷り紙をプレスから外すので、あとで墨版にぴったり合わせるための見当をつけておく必要があります。

1,2版目だけ刷ったあとに、プレスの上の刷り紙の裏に、銅版プレスの上にある見当の印をつけておきます。

この後、色インクが乾いたら、もう一度紙を湿し直して墨版を刷ります。

色インクは、大体2,3日〜1週間くらいで乾きます。

インクが生乾きの時に紙を湿し直して刷ると、刷り紙のインクが墨版にくっついて、紙が破れてしまう事があります。版によって色インクが分厚く紙に乗っている、薄く乗っているなどなど差がありますので、注意が必要です。


色版のみを刷り終えた所。
紙を外す前に、 中心線の見当を
紙の裏に鉛筆で書いておく

刷り終わった色版

いったん水張りをして乾かす

■トラブルシューティング

さて。最後の過程まで、きっちょりと作業した。トレースも正確に、見当もしっかり付けた。刷るときにも、版を正確に合わせた。

・・・なのに、刷り上がりを見ると、版ズレを起こしてる!なぜえ〜〜!!という事が必ずや起こると思います(笑)

版ズレ。これはある程度銅版画の宿命と言えるかもしれません。

銅版画は他の版種とは比べようもない程強いプレス圧で刷ります。しかも、紙を湿した状態で刷るわけですから、当然かなり紙が伸びます。小作品などではさほど気になりませんが、大作ほど紙の伸び率が大きくなるので、ズレが目立ちます。紙の種類にもよりますが、特に伸び率の大きいベランアルシュなどを使うと、大きな作品では全体で五ミリ位伸びちゃったりします。

また、銅版プレスはローラーを中心にベッドプレートが往復する形になっています。これも、ズレの原因になります。なぜなら、どうしても最初の1版目を刷るときに、紙はたくさん伸びてしまい、2版目からは緩やかにしか伸びないからです。1版目を刷るときに作品の上方向からプレスされるわけですから、紙は作品の下方向に向かって大いに伸びます。
しかし、2版目、逆向きにプレスされた時は、1回目のプレスの時程紙は伸びないわけですから、上下でズレを生じてしまうわけです。

その他、ここで説明したような、紙をプレスにはさんだまま刷り上げる方法だと、理論的には紙の位置は変化しないはずなのですが、実際にはプレスの鉄板の歪み・左右のローラーの圧の微妙な差などがあり、プレスを往復させているうちに紙も多少動いている事があります。

そしてそして!!ここで説明しているように真ん中で見当を合わせるやりかただと、どうしても画面の中央はぴったりあっても、画面の端っこに来るほどズレが生じます。たとえばもし、版の右下で見当を合わせたとしたら、右下はぴったりあっても、画面の左上にくるほどズレが生じる・・・ということになるはずです。

だったら最初に版をつくるときから、紙の伸びを計算に入れて製版すりゃいいだろう、と思うかもしれませんが、紙の伸びというのも、刷るときの紙の湿し・プレス圧なんかで微妙に変化します。そこまで計算に入れて製版する・・・というのは超人技ですね〜。

さてさて、うまくいかない話ばかり書き連ねましたが、実際に多色刷りをやってみると、そんなにズレのことばかり気になるわけではないです。要は、絵が良きゃいいわけです。(笑)たとえズレを生じていても、目立たなきゃいいわけですよね。

ただ、私の経験上、なるべく版ズレを生じないよう刷るための秘訣がいくつかあります。・・・て偉そうに言うほどのモノでもないのですが、それをいくつか御紹介します。

紙の縦横の伸び率の差を考える

これは、洋紙でも和紙でもそうなのですが、紙には縦と横で伸びの差があります。
ベランアルシュで例をとると、紙の「耳」(漉いたままのぼよぼよ〜んとした部分)がありますね。この「耳」の辺に対しての垂直方向が、紙の最も伸びる方向なのです。
したがって、この紙の向きにプレスをかけないよう、(ローラーに平行になるよう)紙を裁断することによって、少しは紙の伸び率を減少することができます。
まあ、小品では大した差が出ないのですが、大作となるとその差何ミリにもなりますから、馬鹿にできません。

1版目と色版は、最後の墨版より多少小さめにつくる

上で説明したように、紙は1回目のプレスで一番のびます。
したがって、どうしても1版目の絵柄は大きく刷りとられる、という事になります。したがって、最後まで刷り終ったときに、どの版も同じ大きさにつくっていると、画面の4辺で1版目の色版が墨版よりはみだしてしまう、という事が多々起こります。
プレートマークのはみ出しやズレが一番目立つものなので、これを回避するために、最初から1版目と色版は、プレートマークを大きめにとっておくと良いでしょう。
これもプレスの向き、紙の伸び方向によって多少上下と左右の辺のはみ出しかたが違ってきます。
試し刷りを行なってから修正するのが一番確実だと思います。

プレスの移動方向のズレは、試し刷りのあと微調整する

これも上で説明しましたが、どうしてもプレスの移動方向に1版目で紙が大いに伸びますので、2版目以降、数ミリのズレが移動方向に生じます。
2版目、4版目というふうに、1版目と逆向きのプレスをする版がズレてくるはずです。
これは、2版目以降のズレを試し刷りで確認した後に、銅版の見当をポイントで打ち直すしかありません。
プレス機のクセとか、刷るときの圧などにもよりますので、これは何枚か刷っているうちに把握できてくると思います。

一番確かなのは試し刷りを1回行なった後に、目立つズレを版上で修正すること。

ま、一発で作品を仕上げようとせず、気長に修正するのが最も確かです。

こういったことに気をつけていれば、「1ミリのズレも許せねえ!」という完ぺき主義の方でなければ、色版づくりはそんなに難しいものではないはずです。ぜひトライしてみてくださいね。

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