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銅版画

銅版画の技法いろいろ

銅版画は、使う道具の種類や、直接彫るか、「腐蝕液」を使うか、という分類で、さまざまな技法があります。「銅版画」と一言で括れない、多様な表現が魅力なのです。
ここでは良く知られている5つの技法を紹介します。

銅版画のコーナーでは、作例に永沼版画アトリエの受講生の方の作品を使わせて頂いています。

銅版画の技法は次のようなものがあります。

直接銅版に 工具を使って 銅版を彫る技法(直接法)

1.ドライポイント

2.メゾチント(ルーレット)

3.エングレーヴィング

腐蝕液を使って間接的に銅版を彫る技法(間接法)

4.エッチング

5.アクアチント

次ページに直接法・間接法について詳しい記述があります。

1.ドライポイント

ドライポイント

銅版を「引っ掻くだけ」の、一番手軽な技法です。

「ポイント」という金属の針で銅に彫っていきます。手の力で引っ掻くので、それほど深い溝ができないのですが、線の回りに「バー」という金属の「まくれ」ができます。(上図参照)

インクを詰めてふき取ると、そのバーにインクが引っ掛かって、にじんだような大変味のある線ができます。

ドライポイントの制作の詳しい説明は、[ドライポイント道具編]以下を参照して下さい。

ドライポイント作品部分。金属の「まくれ」による滲んだ線が特徴

完成作品はこちら

2.メゾチント

メゾチント

これも、ドライポイントと同じく、銅の「まくれ」(バー)を利用した技法です。

メゾチントは、「ベルソー」という工具や「ルーレット」を使って、銅の表面にむらなく点々を打ち、まくれを作ります。

この作業を「目立て」と言いますが、目立ての終わった銅版は、試しにインクを詰めて刷ってみると、真っ黒け!

これを、「スクレッパー] と呼ばれる刀のような工具で、めくれを削って調子を作っていきます。つまり、最初に版を真っ黒にしておいて、あとから白い調子を作って絵を完成させるわけです。

ビロウドのような深い黒が表現できる技法です。

ルーレットは、メゾチントと原理的には同じですが、本来は版面全体に使うのではなくて部分的な目立てに使うための工具です。

その他にハーフトーンコームという工具や、カッターナイフも目立てに使うことができます。


花の部分でスクレッパーで
削った白いタッチが見える


ルーレットを使った目立ての様子

3.エングレーヴィング

エングレーヴィング

1.ドライポイント と、2.メゾチント は、彫るというより銅版の「まくれ」を利用したものですが、エングレーヴィングはまさに銅の彫刻です。

「ビュラン」という刀のような工具で、銅版に線を描いていきますが、「ビュラン」の断面は鋭い三角形の形をしてるので、銅は非常にシャープに彫ることができます。線の太さを変えるには、ビュランの種類を変えて彫っていきます。作業段階で出た「バー」は取り去ってしまいます。

後述のエッチングに比べても、冷たい感じのシャープな線が刷られます。切り口が鋭いので、100枚くらいはメッキなしで刷っても摩滅しません。(エッチングやアクアチントを大量に刷るには「クロムメッキ」が必要)

ビュランで線を彫るのは非常に大変な作業で、たとえば、円を描くにはビュランを動かすのではなくて銅版の方を回しながら彫っていきます。 大変緻密な線が彫ることが出来ますが、職人的な鍛錬が必要な技法です。

大蔵省では新しい貨幣発行のために職人さんを育てており、お札の絵柄の原画はこのエングレーヴィング技法で主に作られているそうです。

この技法を使っている作家は大変少ないのですが、古くはデューラー、日本人作家では長谷川潔さんにこの技法で名作がたくさんあります。

アルブレヒト・デューラー
エングレーヴィング作品

4.エッチング

エッチング

ここからは腐食液を使う技法です。

まず、銅の表面に「グランド」という防蝕膜を塗ります。その防蝕膜を鉄筆でひっかくと、グランドがはがれ、線の部分だけ銅の表面が露出します。

この版を、「塩化第二鉄」といった、銅に対して腐蝕作用のある薬品の中に入れます。線の部分だけ腐食され、彫られて行きます。

エッチングは、ドライポイントのように「まくれ」はできませんが、より深く彫られるので、シャープな線が得られます。

また、腐蝕液を使った技法では、線の強弱は、力を入れて描くのではなく、腐蝕の時間の長さによって調節します。薄く細い線にしたいときは、ある程度腐蝕した段階で、そこの線だけ「黒ニス」「止めニス」という防蝕剤を塗って止めればいいわけです。

エッチングの制作の詳しい説明は、[エッチング道具編]以下を参照して下さい。


エッチング作品部分拡大。ドライポイントに比べてシャープな線


作品全体

5.アクアチント

aqua

これも腐食液を使う技法です。エッチングは線の表現ですが、アクアチントは面の表現です。


5段階のアクアチントで作った調子

まず、銅版の上に、ガーゼで包んだ松ヤニの粉をふりかけます。

松ヤニは「グランド」と同様防蝕効果があります。

松ヤニは、乳鉢等で細かく砕いておきます。

アクアチント プロセス説明

すると、細かい粒子が一面に銅版の上にまかれるので、その銅版を裏からアルコールランプなどで熱します。

松ヤニは熱でとけるのですが、松やにの粒子の一粒一粒が銅の表面にくっつく位に熱します。完全に溶けて銅の上を完全に覆ってしまうと腐食しなくなってしまいますので)

アクアチント プロセス説明

これを腐蝕液につけると、サンドペーパーの様な砂目に全体が腐蝕され、グレートーンの調子が出来るわけです

エッチングと同様、腐食したくないところところは「黒ニス」「止めニス」を塗っておき、腐蝕の時間の長さによって濃さを調節します。

アクアチント プロセス説明

エッチングとの併用

アクアチントの制作の詳しい説明は、[アクアチント]以下を参照して下さい。

薄墨を筆で塗ったような調子が得られますが、単独で使っているケースは少なくて、たいていは「エッチング&アクアチント」という形で併用している作品が多いです。

このページの作例はモノクロ、一版の銅版画ばかりですが、多版多色刷りのカラー・エッチングでは、色面の表現はアクアチントを使うことが多いです。

多版多色刷りの銅版画についてはこちらのページから詳しく説明があります。

また、アクアチントだけでなく、ここにあげた銅版画の各技法は、単独で使ったり併用して使ったりできます。

エッチングとアクアチントの腐食を終えた銅版に、ドライポイントで加筆し、メゾチント(ルーレット)を使ってアクアチントの調子を修正する…といった具合です。

aquasakurei01

エッチングとアクアチントを併用した作品。

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