銅版画
道具百科
E.道具を手作り
ところが、銅版用の工具、やはり需要が少ないためか、画材屋さんのカタログなどで調べると結構お高い!輸入品が多いせいでしょうかねえ〜。
そこで、銅版用の工具を手作りしちゃおう、ということになります。
以下、私が多摩美術大学でお世話になりました深沢幸雄先生に教わって、現在永沼版画アトリエで希望者の方に不定期的に「道具作り講座」として教えているやり方です。
手作りで出来る道具
■手作り工具
こういう金ヤスリから・・・・
スクレッパー(左)や
バニッシャー(右)が作れます
ルーレットやベルソーなど、複雑な番線が入っていたりするものは手作りは無理ですが。ポイント、スクレッパー、バニッシャーなどは金物屋さんで売っている金ヤスリから手作りすることができます。
もちろん、加工のためのグラインダーなどの工具は必要なのですが、500円くらいの原材料代から作ることが出来るので、日曜大工の得意な方はチャレンジしてみてはいかがでしょう。(もちろん、100円ショップで買ったヤスリからなら原価100円!ですね〜)
右の写真では、スクレッパーは平型のヤスリ、バニッシャーは丸いヤスリから作っています。
■市販のスクレッパーは?
画材屋さんで入手可能な市販品のスクレッパーは右のような形をした物が多いです。
これは、プレートマークを削ったり、力を入れて画面を沢山削ったりするのは向くのですが、アクアチントやメゾチントの微妙な調子を削ったりしたいときには少々使いづらいですね。
市販の三角スクレッパー。
こちらは三角スクレッパーを使って
削っている様子。
■手作りのメゾチント用スクレッパー
手作りすれば、自分の好きな形に作ることができますから、たとえばこの写真ように「鉛筆握り」をして削れるスクレッパーを作ることもできます。
メゾチントなどを多く作られる方にはとっても便利なものです。
鉛筆握りでメゾチントを削ることができる
■手作り工具のいろいろ
自分の好みのサイズのスクレッパー、その他バニッシャーなどが金ヤスリから作ることができます。
手作り工具に、握りやすいように
皮を巻いたもの
道具作りの材料、必要な工具
■金ヤスリ
道具の材料にします。金物屋さん、100円ショップなどで、自分の作りたい道具の形に合った大きさ、太さものを用意します。
また、実際に道具を作っていく時に工具としても(本来の用途ですね)使用します。
■モーターオイル
焼き入れの時、熱した鉄を入れてゆっくりさますために使います。
■ベンチグラインダー
金ヤスリを加工するのに使います。左側に布のバフをつけて、道具を磨くのにも使います。
■回転砥石
やはり加工に使います。道具の研ぎにも使います。
■カセット式バーナー
金ヤスリの鉄を熱し、加工しやすいように焼きなまししたり、加工し終わったとき焼き入れしたりします。火力が強い物の方がいいです。
■その他
普通の砥石(包丁を研ぐもの)、紙ヤスリ(最後の仕上げに使う。目の細かい1500番くらいのもの)などがあればオーケー!
道具作り実践編
■焼きなまし
まず、材料にする金ヤスリをカセット式バーナーで真っ赤になるまで熱します。もちろん、この時金ヤスリにプラスチックの柄などがついていたら、取り除いて置いてくださいね〜。
その後自然冷却します。
このように、熱した後自然冷却すると鉄は柔らかくなり、加工しやすくなります。これを「焼きなまし」と言います。
■グラインダーで成型
柔らかくなった金ヤスリを、自分の作りたい形にグラインダーで成型していきます。
スクレッパーだったら、まず刃の形を作っていきます。
バニッシャーの場合は先端をなめらかに削っていきます。
■ヤスリ、回転砥石で成型
グラインダーで大まかに成型できたら、さらに細かい所を作っていきます。
へこんだところ、細かい所などはバイスなどで固定してヤスリで成形します。
スクレッパーの場合は、刃にヤスリの目がなくなるくらいまで仕上げます。
バニッシャーは、少しでもでこぼこがあると、銅版を磨くときにかえって傷がついてしまうので、これまたなめらかになるまで成形します。回転砥石などを使うと早いです。
■焼き入れ
成型が終わったら、再びカセット式バーナーで熱します。今度は、刃の部分が赤からオレンジになったら、すぐにモーターオイルを空き缶などに入れたものにつけます。こうすると刃の部分は再び固くなります。これは「焼き入れ」と言います。
熱した後水に付けて急冷するのが一般的ですが、あまりに固くなりすぎると刃こぼれしやすくなるので、ここでは油に入れて少しゆっくり目に冷やしています。こうして、粘りのある鋼にします。
水に付けて急冷→再び熱して、油につけて「焼き戻し」という方法もあります。
バニッシャーのように先端を曲げたい場合は、焼き入れの前の段階で、ペンチで曲げて好みの角度にします。(最初に曲げてしまうと、カーブの内側が削りにくいため。)曲げた後、ぴかぴかに磨いた後に焼き入れをおこないます。
■最後に道具の研ぎ
あとは、バニッシャーならグラインダーに付けたバフに青砥の粉をつけたものや、目の細かい紙ヤスリなどで光るまで磨きます。
スクレッパーは表の刃の部分をバフがけし、ぴかぴかにします。この段階ではまだ切れないので、回転砥石や、普通の砥石で裏面(平らな部分)を研ぎます。切れるようにするために、いつも研ぐときは裏を研ぎます。
表の刃の部分。
ぴかぴかになるように
バフで磨く
研ぎは裏面を
砥石(回転砥石)で研ぐ
2023年10月1日追記
より詳しい写真入りの道具作り講座の記録をブログにアップしました!
版画のミクロコスモスINFORMATION「道具作り講座」を御覧ください。