銅版画
刷ってみよう!
C-1.1版多色刷りのいろいろ
銅版画の魅力は,1版1色でモノクロの魅力、薄い調子から黒々とした深い調子まで幅広く出せるところにあるのですが、きっと、それだけではなくて「色彩銅版画をつくってみたい!」と思っている方も多いでしょう。
ここからは、色彩銅版画の色々な方法について書いていこうと思います。
まずは銅版1枚だけを使う色彩銅版画、「1版多色刷り」について説明します。
銅版画で色彩版画をつくる場合・・・・
木版画、シルクスクリーン、リトグラフなどの他の版種類では、色版画というと10版10色、20版20色などと沢山版を使うことが多いのに比べると、銅版ではあまり沢山の版を使うことは一般的ではありません。
理由は・・・・大変だからですね〜〜。
10枚もの銅版のプレートマーク落とし、アクアチントがけ…考えただけでも肩がこってきます。
そこで、1つの版でいかに色彩を使うか?という発想になります。1版多色刷りは、銅版上で作ったマチエールを無駄なく生かせるし、刷りも見当合わせなど面倒がない方法です。
■刷り上がった版画に手彩色を加える。
簡単に言うと「後から塗っちゃう」だけですが、とっても手軽な色彩銅版画ですね。
刷った作品を水張りしたら、その上から透明水彩やガッシュなどで自由に彩色していけば良いのです。山本容子さんの作品もこのやり方です。
ただ、この場合は刷り取ったインクの上から色の絵の具が被る形になります。また、1枚ずつ塗っていくために、全く同じ作品は二度と作れない(笑)のと、何枚も仕上げるのに時間がかかってしまいます。
初めて色に挑戦!という方はまず手彩色で楽しんで見てはいかがでしょうか。
版画のインクの色をセピアで刷ったり、刷る紙の色も白でなくクリーム色、グレーの紙などを試してみると面白いと思います。
透明水彩で手彩色を施した例
■1版の銅版で、インクを詰め分けて刷る例。エッチング
作例は、エッチング作品で色インクの詰め分けをして刷った例です。刷るときに綿棒などを用意して、絵柄に合わせて色インクを細かく詰め分けて刷ります。人絹でふき取るときも色が混ざらないように気をつけて拭きます。この作例では全体に薄い油膜で色味もつけていて、刷りの時大変繊細な神経が必要です。
■わざとインクを詰めないところを作って刷った例。エッチング
作例は、かなり深い腐蝕のエッチング作品で、前の作例同様色インクの詰め分けをしていますが、わざとインクを詰めないところを作った例です。
インクを部分的に詰めた後、好みの色インクを、指で銅版表面に薄く伸ばしています。(この作例だと茶色やオレンジのインク)そのため、深く腐食した白の線が浮き出るような効果を得ています。
このように「刷り工程も自由なドローイング」として捉えると、表現方法は無限大になります。
作例部分拡大
■1版の銅版で、インクを詰め分けて刷る例。メゾチント
この作例はメゾチントの一般多色刷りです。メゾチントの作品は、真っ黒な版から白いところを削るので、エッチングと違って白いところでも油膜が残りやすいです。それを利用して、黒インクを詰めて8分どおり拭き上げた版に、綿棒を使って固有色をのせ、人絹でそっと油膜が残るように拭き取ります。
この作例では、花のピンク色、葉の緑色を、墨版を拭いた後に綿棒で乗せて油膜を残し刷っています。
■色雁皮などを貼り込んで刷る。
[雁皮刷り]の所で説明した方法です。色を「色面」として2、3色程度使いたい、という場合はなかなか良い方法です。
この方法とインクの詰め分けを両方使えば、たくさん色を楽しむことができると思います。
欠点としては、雁皮の部分貼りは、絵柄に合わせて雁皮をちょきちょき切るのが、結構面倒くさいので、沢山の枚数を刷るには不向きかも・・・。
この作例は、画面全体に版画用の生成りの雁皮。
ハート形の赤い部分と、花形の部分には、ラッピング用などの用途で文房具屋さんで売っている薄い和紙を手でちぎって貼り込んだものです。
刷るときには、版の上全体に版画用の生成りの雁皮をのせ([雁皮刷り]のプロセスを参照)その上にハートと花形の和紙を手でのせて糊をつけて刷ります。つまり、刷り上がった状態では、ハートと花形の和紙は、台紙と生成りの雁皮の間にサンドイッチされて貼り込まれる形になります。
■英字新聞や色紙をコラージュして刷る
この方法の応用編として、英字新聞や色紙など、版画用紙以外の薄い紙を雁皮の下に貼り込む事ができます。直接新聞紙や色紙に刷ると、線や調子などあまり良く刷り取る事ができませんが、この方法だったら、版に直接接しているのは版画用雁皮紙なので、綺麗に刷り取ってくれるわけです。
右の作例は、英字新聞や印刷物の文字をうまく利用して雁皮の下にコラージュして刷った作品です。
■銅版を凹凸刷りする。
エッチングの線の部分など、彫り込まれている部分は普通にインクを詰めて拭き取ります。
(この時色を詰め分けしてもOK!)
そして、拭き取りがすべて終ったら、リトグラフで使うローラーなど、銅版の大きさに合わせたローラーを用意し、全面にインクを盛ります。
出っ張った部分にはローラーで盛ったインクの色に。へこんだ部分は、あらかじめ詰めておいたインクの色になります。
この方法は次の[1版多色刷り実践編]で写真入りで詳しく説明します。
ディープエッチングで高低差が激しいところは
凸刷りのローラーのインクが入らず白く抜ける
■ヘイター法
上の凹凸刷りの応用編ですが、ヘイターさんという作家の方が考案したやり方です。
まず、銅版に普通のエッチングやディープエッチングなどを施します。この技法では銅版に2〜3段階位の深い腐蝕があったほうが断然面白いです。
さて、刷るときに、まず普通の凹版刷りのやり方でインクを詰め、拭き取ります。この時、エッチングの部分、ディープエッチングの角の部分などにインクが詰まります。
そのあと、銅版の大きさに合わせた大きさのローラーを2本用意します。一本は普通のリトグラフなどで使うローラーでOK。もう一本は、軟質ローラーを用意します。軟質ローラーとは、ゴムの部分が普通のローラーよりも柔らかく、銅版の彫り込まれた溝の中にもインクを盛ることが出来ます。
さて、これからが肝心かなめな所なのですが、 まず普通の固いローラーに柔らかめのインク(銅版インクをアマニ油などでゆるめに練ったもの)を盛り、銅版に転がします。銅版の一番高くなっている部分にインクが付きます。
そのあと、柔らかいローラー=軟質ローラーに固めのインクを盛り、銅版にゆっくりと転がします。軟質ローラーですから、銅版の少し低くなっている部分までローラーが密着し、インクが付きます。・・・・・が!最初に盛ってある柔らかいインクの部分には、固いインクが付きません!!
これは、実際やってみるとわかりますが、インクはローラー盛りをすると、柔らかいインクの上に固いインクはのらない性質なのですね。びっくり!
これで、
1.詰めたインクの色(エッチングの線など)
2.最初に盛った柔らかめのインクの色、(銅版の最も高い部分)
3.最後に盛った固めのインクの色(1と2の中間の高さの部分)
合計3色の版画ができる!というワケなのです。これを考えたヘイターさん、頭が良いですね〜〜!!
ヘイターの工房は以前リンクを貼っていたのですが、現在は行方不明。ヘイター、一般多色刷りでググってみると作例がたくさん出てきますので参考にしてください。
銅版だからこうしなくっちゃいけない、ああしなくっちゃいけない、などと考えず、「刷りは版を使ったドローイング」のつもりで頭を柔らかくして色々工夫を重ねてみると、自分の絵柄にあった、自分なりの方法が出来ると思います。
ぜひ色々お試しください。