銅版画
エッチング
E.マジックインク
マジックインクというのは、本当にあの・マジックインクの事です。
文房具屋さんに行くと、マジックインクの詰め替え用として ボトルに入っている物を売っていますが、これがとっても便利な物。
マジックインクは「グランド」のように完ぺきな防蝕膜の役目は果たしませんが、ちょっとだけなら防蝕の役目を努めてくれます。
だから、マジックインクを塗って長時間酸に浸けておくと、 少〜〜しずつマジックの防蝕膜がはがれて行くので、 それによって、複雑な凹凸が出来、色々な調子が出来る・・・・というわけです!
ここでは2つの異なるマジックインクの使い方をご紹介します。
■1 白ガソリンで溶いて、解墨のような効果を出す
解墨のような効果
銅版に白ガソリンで溶いたものを塗ったところ。
このまま腐食液につける
白ガソリンで溶く
まず、小皿などを用意して、ボトル入りのマジックインクを出します。次に、適当にホワイトガソリンで溶きます。
すると、なめらかだったマジックインクの粒子が、少し分離して、粒々・・・な感じになります。
マジックインクを白ガソリンで溶く
マジックインクの粒子が分離
銅版上に描画
粒子が分離したところで、筆をつかって銅版上に描画したり、たらしたりします。
筆で銅版上に描画
腐蝕
マジックの薄い部分はすぐに腐蝕に耐えられずにはがれてしまいますが、もう少し濃い部分は長時間腐蝕に耐えますので、この時間差で面白い調子が出るのです。
■試し刷り
刷りは一体どうなるのかな?と不安に思うかもしれませんが、マジックインクの見た感じそのまま!っていう刷り上がりになるのですよ、これが〜。最初にやってみるときは、うんと薄い部分、濃い部分などをオーバーに作って腐蝕してみると面白いかもしれませんね。
それと、筆を使わずにいらないフィルムや下敷きなどを使って「ぺたぺた」やったりしても面白いマチエールが出来ます。
注意ですが、このようにマジックインクで解墨のような効果を出す場合は、必ず「白ガソリン」で溶かなくてはいけません。リグロインを使って溶くと、ホワイトガソリンよりも溶解力が強いのか、なめらかに溶けすぎて、粒子が分離しないので作例のような効果になりません。「抜きかベタか」になってしまいます。シンナーでも溶解力が強すぎて、同様の結果になります。
また、白ガソリンで溶いても、筆で何度もかき回したりしていると、やはり粒子がなめらかに溶けすぎてしまいます。いつまでもこねくりまわさずに、溶いたらさっと使うのがコツです。
この作例は永沼版画アトリエの受講生の方の
作品を使わせていただきました。
■2 ひび割れマチエールを作る
マジックインクを使った
ひび割れマチエール
銅版に厚めにマジックインクを
流し引きし、白ガソリンを
たらしてひび割れを作る。
これは腐蝕前の状態
今度は、マジックインクをシンナーで溶きます。そうすると、粒子が分離したりせず、滑らかなまま溶けるはずです。
マジックインク溶液を、版に滑らかに、大きな平筆などを使用して塗っていきます。版は立てて置いて塗ると良いですね。
そして、ドライヤーを使って、マジックインクの「表面だけ」乾くようにさっと乾かします。表面が乾いたら、間髪入れず白ガソリンをたらします。すると・・・あら、不思議!!!
表面がヒビヒビに割れています〜!!!
・・・・とまあ、いつもこのようにうまく行くとは限りません。マジックを分厚く塗りすぎた。乾かし過ぎた。などなど、ちょっとしたことで、うまくヒビが割れてくれなかったりします。
たいがい、マジックインクを厚く塗ると大きなヒビが入り、薄く塗ると小さなヒビが入ります。
あと、マジックインクを塗る前に、版をぴかぴかツルツルに磨いておかないとうまくいきません。
腐蝕液に浸ける前だったらば何回でもやり直しが効くわけですから。(シンナーかアルコールでさっさとふき取って、もう一回塗り直せば良いわけですよね) 興味のある方はあきらめずに試してみてください。
ただ、さっきも書きましたが、マジックインク自体は完全な防蝕膜ではありません。だから、薄く塗りすぎるとヒビが腐蝕する前に、マジックで止まっているはずの回りから腐蝕してしまったりします。
ある程度運というか、成り行きまかせな所がある技法です。もちろん、絶対汚したくない部分は黒ニスでがっちり止めてから腐蝕液に浸ければ良いのですが・・・。腐蝕液の強さでも結果が変わります。
その辺の細かいところがすごく気になる方、失敗が許せず、完ぺき主義をモットーとなさっている方にはあまり向かない技法かもしれませんね、これ・・・。
私もこのマジックインクの技法は先生の本で知りました。
実際に大学で先生に教わっていた時は、先生のマジックインクの使い方はもっとダイナミックな感じで、同じものを使っても人それぞれだなあと感じました。 皆様もぜひ自分なりのマジックインクの使い方を開発してくださいね。 深澤先生の著書は、他にも色々な面白い技法が満載ですから、興味のある方はぜひ本屋さんで見つけて下さいね。
ダヴィッド社という所から出版され、古本で入手可能です。
銅版画のテクニック