銅版画
アクアチント
B.シュガー・アクアチント
「シュガー・アクアチント」は、水玉模様のような、飛沫のような効果が出せる方法です。
下右の写真の作例では、サーフィンをしている人物の回りに水の飛沫のような点がありますが、この部分はこの「シュガー・アクアチント」を使っています。
ドローイングなどで、白く残したい部分に「マスケットインク(ゴム液)」を筆で塗り、その上から水彩絵の具を塗って、乾かしてから、消しゴムでマスケットインクを取り去る技法がありますが、それと同じ理屈、と言えばわかりやすいでしょうか。
銅版では、マスケットインクだと上手く抜けないので、砂糖の溶液を使います。
砂糖を使うので「シュガー」アクアチント、と呼びます。又は「リフトグランド」ということもあります。
砂糖の溶液を銅版に塗ると
つるつるな銅版の上なので、
筆の跡や水玉模様のような模様になる。
シュガー・アクアチントを施した銅版。
飛沫の部分がシュガー・アクアチント
シュガー・アクアチントの道具
■砂糖の溶液(シュガー液)
お湯に砂糖(身近にある、一番安いお砂糖でOK!)を、もうこれ以上溶けないくらい混ぜて、溶液を作ります。(以下、これをシュガー液といいます。)
飽和溶液になるくらい砂糖を入れると、蜂蜜か密飴のようにどろんどろんになると思いますが、そこまでする必要はありません。
要は銅版の上に塗ったときに好みの模様が出来ればよいので、アバウトで大丈夫です。また、砂糖だけで粘りを出さなくても、あとからアラビアゴムを混ぜることも出来ます。
ただ、思ったよりたくさんのお砂糖が溶けていくので、作りすぎにご用心。
墨汁や、ヤマト糊を水で溶いたものでも代用できるそうです。
■シュガー液に白の水彩絵の具、アラビアゴムを混ぜたもの
上のシュガー液だけでもいいのですが、銅版に塗った時に見やすくするために白の水彩絵の具、ポスターカラーなどを混ぜます。
さらにアラビアゴム、ヤマト糊などを混ぜると、液に粘りが出るので、筆で銅版に塗ったときに「ねと〜」っとします。
お好みの濃度を作ってください。
■液体グランド
この技法では液体グランドで全体の防触をします。黒ニス、止めニスではできません。
紙コップは、液体グランドを適当な濃さに溶くために使います。
シュガー・アクアチントのプロセス
■銅版の上にシュガー液を塗る
模様を施したい部分に、上の砂糖のシュガー液を塗ります。
水玉模様を、細かく「つぶつぶ」にしたいときには、銅版に薄く油(灯油)などを塗っておくと、少し弾くので、写真の左側のようになります。
ただ、あまりにべったり油を塗ると、この後の作業で液体グランドを流し引きしたときに、いつまで経ってもグランドが乾かずベタベタしてしまいますので、薄目に塗った方がいいです。
右側のように大きなタッチにしたいときには、シュガー液にアラビアゴムを多めに混ぜて粘りを調節をします。
■銅版を軽く熱し、シュガー液の表面を乾かす
ウォーマーの上に銅版を置いて熱します。
版を傾けて、シュガー液が「たらたら」と流れなければもう大丈夫ですので、熱しすぎないように。あくまで液の表面だけを乾かすのが目的で、中の方までコチコチに乾いてしまうと、この後、液体グランドを塗った後、お湯で抜くときに苦労をします。
■上から液体グランドを流し引きする
液体グランドはあらかじめガソリンやリグロインで溶き、濃度を調節しておきます。
あまりにグランドを厚塗りすると、下のシュガー液が抜けづらくなりますし、薄すぎると腐蝕に耐えきれなくなるおそれがあります。目安は、だいたい普通にエッチングをするときくらいの濃度よりやや薄目・・・でしょうか。
シュガー液を塗って乾かした版の上から液体グランドを流し引きして、グランドを乾かします。
グランドの濃度を
銅版の端切れに流してみて
濃さを調整する。
グランドを
流し引きして
乾かした状態
■シュガー液の部分を抜く
バットにぬるま湯を入れて、グランドが乾いた銅版を入れてバットごと揺すり、シュガー液の部分がお湯に溶けてくるように、しばらく放置します。
あまり熱いお湯を使うと、液体グランドが柔らかくなってしまうので、あくまでぬるま湯で。
しばらくすると、白いポスターカラーの色がお湯に溶け出して、銅の部分が露出してきます。
抜けづらい時には、軽く指などでこすって落とします。
グランドが厚すぎた時などは、塗った全ての模様が抜けきれない事もありますが、このあと腐蝕することによって少しまた抜けてきたりしますので、あまりに完全に落とそうと長時間粘りすぎないように。
ぬるま湯を入れた
バットに銅版を入れて、
バットを揺らす
シュガー液が
抜けづらい時には
指で軽くこすって
落とす
■上からアクアチントをかける
これで、水玉模様の部分は銅版が露出し、他の部分は液体グランドで防触膜が出来ている状態になりました。
この上から前ページのプロセスの通り、松ヤニをはたいて、下から熱して定着し、といったアクアチントの作業をおこないます。水玉模様の部分だけアクアチントでグレーにするわけです。
松ヤニを定着したらそのまま腐蝕液につけて腐蝕を行います。
この作例の場合はそのまま腐蝕液につけてディープエッチングにしました。シュガー液が抜けたところはディープエッチングと同じく、腐蝕によって一段掘り下げられた格好になります。
■腐蝕する
腐食液に入れて、好みの濃さに腐蝕します。
■腐蝕が終わり、ガソリンでグランドを取り去った状態
版の上にトレーシングペーパーをかぶせている状態です。
■完成!さあ、刷ってみよう!
刷りの工程は、刷ってみよう!を参照して下さい。