宇宙の轟音!?マーラーの第1楽章

2001.04.28 2003.11.11re-update

マーラーと言えば、ワーグナーに並んで長い・くどい・しつこい、の代表格。 しかし、「当然」わたしkeroは大好きです。(笑)

マーラー・ファンはワグネリアンよりも回りに多いような気がします。どうしても声楽関係は日本人は苦手な人多いみたいなので、交響曲を主としてつくったマーラーの方が人気あるのかしら。でも、ワーグナー、ブルックナー、マーラーと、音楽史の上ではつながりがヒジョーに強いのですよん。(なんでも、ブラームスの流れとは「和声法」が違うそうである。良くわからんけど。)

さてさて、マーラーを語るうえで避けて通れないのは、あのヴィスコンティの映画「ベニスに死す」でしょう、やっぱり〜!

ビヨルン・アンデルセンの美少年ぶり、ダーク・ボガート演じるオジサンのお化粧したグロテスクな姿・・・・まさに世紀末な映像美。ああ、ラブラブ♪♪

交響曲第5番第4楽章「アダージエット」にのって、出だしに船が煙をはきながら画面に現れるところなどまるでオペラのよう。すてきでしたね〜〜。

そして、きわめつけは原作では小説家だった主人公のオジサンを作曲家に変えた部分です。マーラーがモデルと言われていますが、アタシは最初アノ映画を見たときはマーラーのマの字も知りませんでした。(^^;)

トシがばれちゃいますが、アタシが幼少のころはまだまだマーラーなんて全然マイナーでした。「名曲100選」なんてレコード会社の企画でも、マーラーなんてせいぜい交響曲第1番が入っていれば良いほう、「大地の歌」とか「第9番」のような曲は、今ならオニのように新譜がでまくりますが、その頃はそんなにレコード売り場に置いてなかったです。

一説によると、マーラーの曲は長大なので、LP時代はどうしても何度もディスクをひっくり返したりせねばならず、また楽章が片面に収まりきれないとか、いろいろネックがあったらしいですね。今はCD時代、我々も安心してマーラーを聴くことが出来るわけです。よかった〜〜。(^^)

ワタシが映画に影響されて初めて買ったマーラーのレコードは、モチロン交響曲第5番!「ベニスに死す」のテーマ音楽が目当てでした。

そのころアタシは中学生くらいだったかなあ。レコードを聴いていると、交響曲ですから、もちろん第1楽章、第2楽章、と進んでいきます。ところが、最初聴いたときは第1楽章がやたらに長くて訳がわからなかったんです。

「なんじゃ、こりゃあ〜(←松田優作風)」少女・keroはがっかりしました。「全然面白くないじゃん!いつになったらアノ映画のとろけるようなメロディーがでてくるんじゃあ〜。」およそ40分後に「ベニスに死す」のテーマ音楽・第4楽章「アダージエット」がはじまり、やれやれ、やっとだぞい、と思ったもんです。

それ以来、「アダージエット」のところだけ繰り返し聴入りました。今思えばコドモだったなあ。(しみじみ)第1楽章の魅力がわかってきたのは、大学生くらいになってからです、多分。

マーラーは「千人の交響曲」の説明かなんかで、自ら「宇宙が鳴り響くサマを音楽にしたいのじゃ!」とおっしゃっています。しかし「千人の交響曲」に限らずどの曲にもそういうコンセプトが感じられます。最も良くでているのが彼の第1楽章でしょう。マーラーの第1楽章はどの交響曲もたいてい「この世のすべての要素をぶちこんだ」ような感じがします。

良く指摘されるのはラッパの音。

マーラーは小さいころ兵営の側に住んでいて、そこのラッパの音が原音楽体験になっていたそうな。小さいころの両親の不和、暗い家庭生活などを思いだすと、その時のラッパの音が「ぱっぱらぱあ〜」と頭の中に出てきてしまうだそうです。で、すごく精神的な深〜い美しいメロディーを頭に描いているときに、不意に「ぱっぱらぱあ〜」とラッパの音が出てきてしまい、それをとっても悩んでいたそうな。

フロイト先生だったら何て解釈するでしょうねえ〜。でも本当に悩んでいたなら楽譜に書いちゃったりはしないと思うんだが・・・(^^;)

私はやっぱり、マーラーは確信犯だと思います。天の音楽と人間界の音、すごく霊的な自然界と汚物まみれの世俗の音、これらをミックスして自分なりの宇宙をつくりたかったんですな、マーラーさん!!

ラッパの音。ちょっと不気味な童謡のアレンジ(「子供の不思議な角笛」という歌曲からの引用)。愛を歌い上げる崇高なメロディー。これでもかと盛り上げるハープのアルペジオ。 これらのモチーフは独立し、交錯し、たとえばもっと古典的なモーツアルトやブラームスの交響曲と比べると、雑然ととりとめのない印象を受けます。が、これこそマーラーの本質です。その本質がよっくでているのはやっぱり第1楽章だと思うんです。

そして、その対比として第3番第6楽章、第5番第4楽章、第9番第4楽章など、緩徐楽章のメロディーの天上的な美しさ。彼がどういうふうに神について考えていたのはニッポンジンの私なぞには想像がつきませんが(マーラーはもともとユダヤ人、のちにウイーン歌劇場総監督の座が欲しくてカトリックに改宗した)少なくとも彼の考える霊的な世界のイメージはわかるような。

オーケストレーションも、彼は主たる生計は指揮で立てていたので、さすがにうまい。 管弦すべてが独立し粒立って聞こえてきます。

私は常々、マーラーの曲って絵で言えば「コラージュ」だなあ、って思っています。

コラージュとは雑誌や写真、異素材を貼り付けてつくる絵の事ですが、マーラーは自然や人間界のさまざまな要素を切り取って貼り付けて、けして天の声を歌にするだけではなく世俗の世界も織り交ぜた「大いなる祭り」を奏でたかったのですね〜。

これはなんとなく日頃ワタシが作品を作る上で考えることと共通してるんです!マーラー大先生と自分を重ねて考えるなんて、罰当たり恐れ知らずの外道ですがねえ。これはホント。

マーラーを聴きすぎてそうなったのか、自分の趣味がそうであるからマーラーが好きになったのか、ちょっとわからんです。(^^;)

実は、私をさらにマーラーにハマらせた出来事がありまして、それは大学生時代、ベルギー国立20世紀バレエ団(現在はベジャール・ローザンヌ・バレエ)の公演を見たことなのですが、こちらは話が長くなりますので詳しくはこちらをごらんくださいね。

さてさて、もう一つマーラーファンなら必見の映画は、ケン・ラッセルの「マーラー」!

これは面白いです〜(^^)「ベニスに死す」のパロディーとか、コジマ・ワーグナーがナチの兵隊の格好で踊ったりして、もうめちゃ笑えます。

でも、いくらミュージカル仕立てとは言え、奥さんのアルマ・マーラーは女優さんがちょっとワタシのイメージと違ったなあ。あの時代の一大名士の奥様で、夫亡き後画家のココシュカと結ばれるほどのインテリ女性だから、もっとエレガントな方が趣味でしたワ。


KEROのオススメのディスコグラフィー



●バーンスタイン指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ「交響曲第3番、交響曲第9番」

アタシにとっては、マーラーはバーンスタインが一番安心して聴けます。なぜかしらん?きっと最初に聴いたレコードがバーンスタインだったからもね。(薄弱な理由だ ^_^; )ねっとりしっとり、すごく曲に合うんですよね。お亡くなりになったときは悲しかったです。

●アバド指揮ウィーンフィル「交響曲第3番」

第1楽章はバーンスタインよりこっちが好きかもしれません。上に書いたように、あらゆる要素をぶち込んだ粒の立った音がめちゃ良いです〜。

第1楽章の最後に2台のハープが「ぼろろ〜〜ん」とアルペジオを奏でますが、ここの所を聴くと目の前にクリムトかエゴン・シーレの絵が「どわあ〜〜ん」と迫ってくるような錯覚に捕らわれます。

●ディースカウ、シュワルツコップの歌「子供の不思議な角笛」

オケ伴奏付きの歌曲。このCDはワタシのベスト何番かに入るCDです。マーラーの交響曲の初期のものはこの「角笛」から引用されている曲が多いんですが、マーラーの世俗世界の表現が全部ここにつまっています。(もちろん、天上世界もね!)民謡がベースなんですが、特に戦争の悲劇を反映してか兵隊さんの悲しい歌が多いです。

終曲の「美しくトランペットの鳴り響くところ」という曲は、もう大好きです。こちらに書いたような、好きになるきっかけがあったこともあり、聴くたんびに涙ぼろぼろ。

●ディースカウの歌「さすらう若者の歌、亡き児をしのぶ歌」

これもオケ伴奏付きの歌曲。古い録音でけっして音は良くないですが、そんなこと吹っ飛んじゃうくらいスンバらしい録音です。ディースカウって、わたしはシューベルトとかは必ずしも好きじゃないんですが、マーラーに関しては花マル付けちゃいます。