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版画全般

版画 Q&A
4.オリジナル版画って?

Q1:最近、すごくたくさんのエディション(枚数)を刷った版画を 「オリジナルリトグラフ」として売っているのをよく見かけますが、 これらは本物の版画なのでしょうか。

この記事は1999年、このホームページ開設時に執筆したものです。現在は版画をめぐる環境も変わってきたかと思いますが、それらを考慮の上お読みいただければと思います。

A1:「版画」の定義は、版の形式の話で説明した通り、現代では銅版、木版、リトグラフ・・・などだけではなく、コピーワークやオフセット印刷も版画の技法として使う作家が沢山います。ですから、「本物の版画」とは何か、について色々な議論があります。

質問の趣旨はおそらく、「本当にリトグラフかどうか良くわからない」という事だと思いますので、以下の説明はそのことについて書きます。

印刷に比べるとリトグラフの刷りは大変手間がかかりますから、常識的物理的に考えて 何千枚ものエディション(枚数)を刷っているものは、御購入前に一度、オフセット印刷ではないかと、疑ってかかる必要があると思います。

リトグラフや銅版画の本当の刷りであれば、せいぜいエディションは2〜300枚くらいのものです。ただし、シルクスクリーンは、製版、刷りともリトグラフや銅版画に比べると時間がかからないので、1000枚以上のラージ・エディションでも「本当にシルク?」などと疑う必要はないと思います。

自称「リトグラフ」の中には・・・・

  • 単に作品の原画を写真に撮って、それをコンピューターなどで四色分解し、オフセット印刷したもの
  • 網点が目立たないように、さらにその上に一版か二版、シルクスクリーンを刷っているもの
  • インクジェットプリンタで版画用紙に印刷してあるものそれを「リトグラフ」と称して売っているもの

を見かけます。

オフセット印刷やポスターがいけない、とは申しません。もし、それが気に入って、部屋に飾りたい!と考えたなら。また、価格が自分にとってそれだけの価値があると考えるのならば。 迷うことなく購入すれば良いと思います。

また、オフセットやコピーを使って表現をしている現代美術の作家の方もたくさんいます。 彼らの場合は、版画の複数性や自分の表現をきちんと考えた上でそうしているのですから、れっきとしたオリジナル版画として認められています。また、この場合はきちんと「オフセットプリント」とか「コピーワーク」と明記しているはずです。

要は、オリジナル版画とは、技法ではなく作家の制作のプロセスの問題なのです。

なぜリトグラフでなくオフセット印刷で、わざわざ「リトグラフらしく」作るのか。 ・・・これはもちろん、時間とコスト節減のためであることは言うまでもありません。 「版画HANGA百科事典」を読んで下さった方ならば、本当に全部手作りのリトグラフがどんなに手間がかかるかはわかると思います。

また、版画の技法(木版、銅版、リトグラフ、シルク・・・)の中でも、リトグラフというのは、実際にどんな技法でどんな画肌(マチエール)を持っているものなのか、知っている人が少ないのです。でも、「シャガールのリトグラフ」「ミロのリトグラフ」などと、版画の技法として「リトグラフ」の名前だけはご存知の方は多いですよね。

「オフセット印刷」というと何となくポスターのようなので、「リトグラフ=版画」と言って販売しているのではないか・・・と推測されます。

もちろん、版画Q&A3.版画の値段に書いた通り、手間と時間は芸術的価値と何の関係もありませんし、コピーやオフセット印刷も、版画の技法として使っている作家もいるのですから最初から「オフセットプリント」とか「インクジェットプリント」 ・・・などとはっきり明記して販売ればいいと思います。でも、はっきり明記せず、はっきり説明せず、また「これはリトグラフだ」といって売っている所が一部あるのが残念ながら現状のようです。

版画をもっと身近に楽しむためにも、少しだけ版画の知識について学んでみてはどうでしょうか。

Q3:そもそも「オリジナル版画」ってなんですか?

A3: 永沼版画制作の見解は、

  • 版画は、製版、刷りの工程も含めての、絵画制作である。
  • オリジナル性とは、技法ではなく作家と作品の問題であり、プロセスの問題である。
    作家が版画を作るコンセプトが版画のオリジナル性と深くかかわっている。

    大量生産のためだけに、作家のコンセプトを反映することなく、作品の原画を写真に撮って、それを四色分解し印刷したものは、「オフセットプリント」「インクジェットプリント」などと明記するべきで、また、オリジナル版画とは区別するべきである。

  • 作品を制作するために、作家が版画工房と共同で制作したりすることがあるが、作家が少なくとも校正刷り(版画工房が最終的に作った試し刷り)を見て確認をしたものでなくてはならない。
    さらに、刷られた版画作品に作家がすべて自筆でサインを入れていなければ「オリジナル版画」とは言えない。

・・・・という意見です。

注)オリジナル版画については、日本現代版画商共同組合がガイドラインを出しているので、そちらもぜひ参考にして下さい。

プロセスとかコンセプトとか、難しい事を書きましたが、簡単に解説。

油絵作家やデザイナーが、「自分の作品を版画にしてみたい!」と考えたとします。 でも、版画の技術は習得するのに時間がかかりますし、設備や材料も一から揃えるとなると大変ですね。 そこで、版画工房に制作や刷りを頼むとします。

版画を作ることができるのが、大学などで版画を専攻した知識のある人だけ、版画だけを作っている版画家の人だけ・・・などというのも、つまらなく、版画の世界が狭くなるだけです。 版画工房での制作を、色々なジャンルの作家の方が経験してみるのは大変良いことだと思います。

さて、この場合は、作家の方が製版、刷りすべてをやらないからオリジナル版画ではないのでしょうか?

もし、単に機械的に作家の方の原画を写真にとって、それを四色分解して印刷で作品をつくる・・・・」というプロセスをふむならば、そこには全く作家の方のコンセプトを版画作りに生かせません。

でも、作家の方が「版画をつくりたい!」と思うからには、 銅版画でいつもと違った線を描いてみたい、とか、リトグラフの解墨で調子を描いたら、どうなるだろうかとか、「いつもの自分の作品と別な顔のモノを作ってみたい」とかいう、何かしらやりたいコトがあるはずです。

このような構想(コンセプト)が、「版画のオリジナル性」だと思います。

こうした作家の構想(コンセプト)を、版画工房のスタッフが自分の経験や技術をうまく生かして制作に寄与することができたならば、作家のオリジナル性がプロセスに生かされたのです。

もし、技法として作家がオフセット印刷を使っていようが、コピーをつかっていようが、それはオリジナル版画と呼んでいいと思います。

注)日本現代版画商共同組合のオリジナル版画のガイドライン
  • 版画を制作する目的で作家が下絵を描き、作家自身が木版、銅版、石版、孔版等を自刻(製版)したもの。
  • 作家自身が自分の手で摺ったり、プレスにかけて刷ったりした作品、もしくは作家の監督下で職人がその指示通りに刷ったもの。
  • 完成した作品の一枚一枚を作家が容認したもの。
  • 完成した作品の版面左下に普通、限定番号を、右下に自筆署名したもの。
  • 1930年以前に制作された版画にはこの原則は適用されません。