自己陶酔型バイオリニスト

2001.06.01

バイオリンを始めて、数年たった私は、今まで気づかなかった事に幾つも気づいた。音楽を今まで沢山聴いてきたつもりだったが、聴くだけではわからなかった非常に面白い事がわかってきたのである。

●バイオリンは、体力だ!!

バイオリンはとても不自然な格好で演奏をする。

左のアゴと鎖骨にバイオリンを挟む。これだけでも初学者は肩こり、アゴの痛さに辟易するもんだ。

さらに、左肘をバイオリンの内側(つまり、自分の身体の内側ね。)にぐぐっと入れないと、ハイポジションとか小指の押さえがうまくいかない。これが、身体がコチコチの大人にはしんどいのだ。

左手が何とか収まるようになっても、弓を持つ右手がだんだん難しくなってくる。

バイオリンは4本の弦があり、バイオリン中央に弦を引っかけている「駒」というもので高さや角度が調節されている。移弦はもちろん右手で弓の弦にあたる角度を変えて弾くのだが、これは右手の肘の高さを一瞬にしてぱっと変えて移動する。曲が難しくなってきて、「G線→E線、E線→G線」などという移弦がでてくると、右手はかなりの運動量を強いられることになる。ためしに皆様、自分の右手の肘を、肩の高さ(G線)から真下(E線)にぱっ、ぱっ、と上げ下げしてみてくださいな。どうです、けっこうな運動量でしょ?

最初習い始めた頃には、10分練習してはベッドに倒れ込み、のありさまだったkeroである。もともと運動神経がないのには定評のあるワタクシ。とほほのほ〜。

しかし、一年経ったら、こんな運動音痴のkeroですら1時間くらいの練習が平気になったのだから、慣れとはオソロシイ・・・ではなく、偉大なものである。また、最初のうちは体中緊張して力が入りまくっていたのが、ちょっとは楽に力を抜くことが出来るようになったせいもあるけれど。うん。何事もやってみるもんだなあ。

でも、バイオリンコンチェルトなど演奏時間の長いものを弾くプロの演奏家の方々の事を考えたら、やっぱり「す、すごい〜〜」と感心してしまう。あんな曲は一生弾けなそうだ〜!もちろん弾けないに決まっているが、何よりも、私はあんなに長い時間バイオリンかき鳴らす体力などあるまいっ!

ピアノだって体力がいるにはいるけれど、バイオリンはそれどころではない体力がいります。バイオリニストは本当に体力だあ〜!!

●バイオリンは、調によって弾きやすい曲弾きにくい曲がある。

ピアノだったら、別に♯が3つ付いていようが♭が5つ付いていようが、とくにめちゃくちゃ難しいと言うことはない。手の小さいkeroなどは、むしろ黒鍵がたくさんあったほうが、オクターブが手が届きやすいなどのメリットすらある。(もちろん、譜読みが多少大変になるけれどね。)

しかしっ、バイオリンはそうはいかないのだ!

なぜなら、バイオリンって、「フレット」がない楽器だ。ギターのように、指板にフレットが付いていれば人さし指と中指が2センチ離して押さえようが2.3センチ離して押さえようが、ツボさえ押さえれば同じである。しかし、バイオリンの場合は、指の押さえる位置が1ミリずれようものなら、たちまち「音痴」。非常にムズイ楽器である。

音の幅を、フレットのかわりに、各指の開き具合で調節して押さえなくてはならない。さらに、最初のうちはどうしても音痴になりがちなので、安定して押さえられるように「ど」を押さえたあと「れ」に移行するのに、「ど」を押さえた指を放さないで「れ」も押さえると指導される。

簡単なように聞えるが、すべての音を4本指を放さないようにして押さえるのは結構難しい。

なぜって、人間の指というものは、どうしても中指と薬指がくっつきやすく、逆に離しにくいなどなど、いろいろクセがあるもんだ。(皆さん、試しに自分の左の指でやってみてくださいね〜。)人さし指と中指をくっつけておいて、同時に中指と薬指をめいいっぱい開くのは、結構出来ないもんである。

しかし、これを訓練しなくてはならない!最初は結構指がつりそうになるのである。

そして、初心者のうちはどうしても音程がずれやすいので、開放弦をたよりに音を取るのだが、開放弦とは、下からG(ソ)D(レ)A(ラ)E(ミ)。この四つの音がないと、何となく不安。なのに、♭が付いた音階、つまり、変ロ長調とか、変ホ長調とかは、こいつをたよりに出来ないというオソロシイ音階だ!

そして、♭が付くと、指の中で最も自由の利かない弱い指、薬指と小指をぴたーっとくっつけて指板にたたきつける、という苦行が待っている。 これが私は非常に苦手だ。今もあんまり出来てなく、日々先生に叱咤されているのであ〜る。

●バイオリンは、弾いている自分では自分の出している音がわかりにくい

バイオリンを始める前は、「のこぎりのような音」「歯の浮くような音」が非常な恐怖だった。しかし、実際練習し始めると、それほど気にならないことがわかった。・・・・少なくとも自分では。(笑)

悪音に悩まされているのは自分でなく、ダンナちゃまと猫のコケちゃんのようなのだ。 特に猫のコケちゃんは、最近ではバイオリンケースを見るなり、ダッシュして逃げ出すようなありさまだ。

どうしてなのか?

そう、バイオリンは自分のアゴと鎖骨で楽器を挟む。

したがって、音は自分の頭がい骨を伝動して耳に伝わるので、響き良く、あたかも美しいように聞えちゃったりするわけだ!

このため、keroは始めたばかりの時、バイオリンで音出しをしながら、「始めて間も無い割には、ずいぶん良い音が出てるじゃん。もしかして、私ってスジが良いのね〜〜。オッホホホ。」 ・・・などとオソロシイ勘違いの日々を送っていた。まさに、自己陶酔型バイオリニスト!

この勘違いを打ち砕いたのは、ある日、「自分の演奏をちょっと録音してみよっかな〜」と思いついた事である。

再生して出てきた音は・・・・われながら開いた口がふさがらないような音、恥を忍んで書けば、それはバイオリンというよりも冬に屋台を引くあのラーメン屋のチャルメラに最も近いと思われるような音であった・・・・・・。(^^;)

・・・・・・・

keroは落ち込み、その日は静かにバイオリンをケースにしまい、寝た。

それ以来、keroは我と我が身に思い上がりを戒めつつ、ひたすら美しい音を追究している次第である。

しかし、ごくたまに、ついうっかり戒めを忘れ、ウットリと「自己陶酔型バイオリニスト」をやっちゃったりしているのでありました。