隠れチャイコな日々

2000.07.01

私は幼少のころ「おピアノ」というものを習っていた。

・・・いや、習わされていた、というべきか。

最初のうちは楽しかったのだが、小学生になってからやたらに厳しい先生にしごかれて、嫌気が差してやめたという暗〜い過去がありますのじゃ。

当時から根性が無いのには定評があった私である。(^^;)

ピアノのレッスンというものは、誰でも最初は 「赤バイエル」「黄バイエル」というモノからはじまる。

これは単に表紙が赤と黄色だから付いた名前だが、その内容は・・・子供向けに延々とミョーに元気の良い能天気なハ長調の曲ばっかり沢山やらされる。 よくまあこんなに沢山・・・・というくらい、能天気な曲がつづく。 指の訓練だから仕方ないけどね。

さて、たしか「黄バイエル」だったと思うが、最後の方に、 ♭が二つ付いた妙にしみじみとした曲が一つ載っていたのだ。

バイエル・レベルの子供としては、フラット二つ♭♭付いている曲は 難解な方である。(ちなみにこれは変ロ長調と言います♪) 演奏の方は、左手2本指、右手1本指という超簡単なものでしたけれどね〜。

しかし!

このせつないメロディーの曲は、能天気ハ長調ばっかりやらされてウンザリしていた 少女・keroの胸にぐさあ〜っとつきささったのであった・・・・

「おおっ!!こ、この和音の醸し出す憂愁と哀しさの楽曲わっ!!」

・・・と思ったかどうかはあまり覚えてないのだが(笑)(ちなみにそれは「新しい人形」という曲だった。)

これが私keroとチャイコ(つまりチャイコフスキー)との運命的な出会い・・・だったのである。

その後根性足りずにピアノをやめた後も、もっぱら聞く方オンリーでチャイコは大好きだった。

バイエルの超簡単な曲で感じた、「いわれの無い憂愁」とでも言おうか、 メランコリックな気分がチャイコの音楽にはあふれまくっている。 私はそれが大好きで(ネクラだったのか!!!??) FMファンという隔週雑誌を買ってきて、チャイコフスキーと書いてある 茶色い文字のところを蛍光ペンで欠かさずチェックし (当時FMファンはクラシックの番組は茶色い印刷だったので) ラジカセで録音しまくって毎晩聴きながら寝た。

ちなみに私の好きだったのは、チャイコの中でも、 特に室内楽とか小品に多い 「いわれの無い憂愁」あふれまくりの曲だった。 (今でもそうですが。)

あまりメランコリックでない、砂糖菓子か大甘の大福のような 「くるみ割り人形」とか「眠れる森の美女」とかは大嫌いでした。(^^;)

そして、「う〜む、チャイコとはただ者ではないっ!」 とハマリまくった少女・keroは、チャイコ氏の生涯について調べるべく 本屋へと向かったのであった・・・・。

当時はまだブレジネフのおわすソビエトな時代。

私が手にいれたソ連の音楽研究家の書いたチャイコフスキーの評伝は、 もうほめごろし、二宮金次郎の伝記か、っちゅう感じ。 「チャイコは偉大な作曲家、奥さんは悪妻」 ・・・くらいしか書いてなかったものです。

ちょっとがっかりしたが(って、何を期待していたのやら) 巻末にチャイコの全曲データが載っていたので、まあその本は一応役には立った。

その後、高校生の頃だろうか。 テレビでケン・ラッセルの映画「チャイコフスキー」を見た。

よくあんなマイナーな映画、ゴールデン映画劇場でやってくれたなあ、と思うのだが・・・

これが実に面白かった。 (ケン・ラッセルはマーラーの映画なんかもつくってますね〜♪)

その映画では、チャイコ氏はマザコンでホモで妄想癖があって、 経済力もなくって、もうどうしようもなくって(笑) 奥さんとうまくいかなかったのも彼のホモのせいで、 奥さんは結局少しおかしくなって精神病院に送られてしまう。

今ではそういう事柄はもう有名な話だが、 少なくともソビエト政府御用達の音楽研究家の本には じぇ〜んじぇん触れてなかったマル秘話が満載だった。 その映画ではチャイコ氏自殺説をとっていたが、彼の死因は未だに論議のまとらしい。

超簡単バイエル曲にはじまって、彼の音楽に充ち満ちている「いわれの無い憂愁」、 これって実は「いわれのある憂愁」だったのだなあ〜〜。 ・・・とその時感じたものです。

帝政ロシア末期に生きた同性愛者だったチャイコ氏は、 世間とか社会は自分を裁くものだと写ったのかもしれない。 罪の意識と孤独感。 そこに三島由紀夫の仮面の告白的苦悩を見いだすのも一興かもしれない。 ・・・な〜んて言ったらチャイコ氏には気の毒だけんど。

ませていた少女・keroはその映画を見て、 ますますチャイコにハマっていったのは言うまでもない・・・。

さて。 私の通っていた神奈川県下の高校は、 公立では珍しく「ブラスバンド部」ではなく「オーケストラ部」というものがあった。

普通貧乏な公立では弦楽器など高いものを揃えるのが難儀なのであるが、 私の高校は、1学年で音大を受験する者が2,30人もいるという たいそう芸術さかんな高校だったのだ。

ちなみに美術大学受験者も大量にいたので、 学業をさぼっても文句をいわれない 楽ちんな高校だったのかもしれないけどね、単に(笑)

それはともかく・・・

高校二年生の時、楽しい東北への修学旅行に出かけた我々美術部の3人の女の子は、 たまたまオーケストラ部の男の子4人の集団と意気投合し、 彼らが隠し持っていたウイスキーをちびちび啜りながら (悪いことがやりたい年頃でしたからね〜♪) 部屋に集まって楽しく語らっていた・・・

オーケストラ部の連中は、楽器を持ってきている子もいたりしたので、 音楽の話などで盛り上がってたら、彼らの内の一人が、何でも、 ピアノも弾くし、音楽理論にも明るく、 作曲科か指揮科を受験する予定のたいそう優秀な音楽学生で、 連中いわく「将来の有名人」だと言うではないか。

さっそく少女・keroは彼に、 「私はチャイコフスキーがだあ〜い好きなのお〜〜〜!」と、 日頃の情熱を打ち明けるべく・・・

いや、なんというか(笑)つまり 思いのたけを・・・・

話そうとしたわけです。

すると。 その、将来の大音楽家の先生は、おもむろに眉をしかめ、 かすかに横に顔を傾け・・・・・

「ちゃいこふすきい??? ふっ・・・・・」とのたまったのだ〜。

(注) この「ふっ・・・・」は多分に嘲笑と苦笑のいりまじった 指先で鼻ぴょ〜〜〜〜んの雰囲気で。

ぎゃああ〜〜〜〜!!!

それはチャイコが専門家と玄人さんにはあまりウケが良くないと知った 少女kero・衝撃の17歳の秋であった〜〜〜!!(笑)

まあ、たしかにメシアンとかシェーンベルクとかショスタコービッチとか 現代音楽に造詣の深い優秀音楽学生の方には チャイコってムード音楽かなんかに聞こえるかもしれないっすね〜。(笑)

だいぶ前に「題名の無い音楽会」という朝のTV番組で 「1812年」を例にとり、チャイコの音楽の通俗的なところを こてんぱんにけなしてたのを見たことあります。 (ちなみに司会は黛さんだった) やっぱり嫌いな人は嫌いなんじゃのお〜、とkeroは妙に納得したもんです。

当時高校生で夢見る乙女(笑)であったkeroも、 その後トシをとって、好みがマーラーとかワーグナーとかに移行した後は チャイコ氏、たまに「ううーん。大甘すぎ」と 食傷ぎみになることしばし、です。

そりゃ、マーラーもワーグナーも甘いっちゃあ甘いけどね。 ちなみに私はアンコがすごく苦手である。(関係ないけど)

だが、幼年期の体験つうものは恐ろしいもので、 その後もたまに第五シンフォニーの2楽章とか、第六シンフォニーの1楽章目なんかの アノ恥知らずなくらい大甘のせつないメロディーを聴くと 勝手に右脳が反応し、身体が左右に揺れてしまうという・・・・(^^;)

いやあ、私にとっては原体験音楽なんですな〜、チャイコって。

しかし、夢見る乙女時代の衝撃体験(^^;)のせいか、 私は「ちゃいこふすきー、だあ〜〜い好きなのお〜」とは あまり人に軽々しく言わなくなってしまったのであった。

つまり、わたくしは「隠れチャイコ」と化したのである。(笑)

今、「好きな作曲家を五人あげよ」と言われると、 マーラー、ワーグナー、モーツァルト、ベートーベン、シューベルト・・・・ あたりを選ぶだろう。

この五人は「生活必需品」であるから。(何のこっちゃ)

もし「十人選べ」と言われると・・・ その時はさらに、ブラームス、ブルックナー、ショパン、ヴェルディ、そしてチャイコ! を選ぶであろう。

ごめんよ、チャイコ!!第十位にランクしたりして!!

でも君への愛は永遠だあ〜〜〜!


KEROのオススメのディスコグラフィー

●ゲルギエフ指揮ウィーンフィルの「交響曲第五番」

ザルツブルグ音楽祭のライブ盤。

これを聴いて久々にチャイコへの愛が復活しました(笑) ゲルギエフってすごいですね〜。テンポの揺らし方なんてド・迫力です。 しかも2楽章目なんかの恥知らずなくらいの歌い上げ方・・・ もうトリコです。

●アバド指揮ポゴレリッチのピアノ「ピアノ協奏曲第1番」

あのだれでも知ってる元祖大甘チャイコ節なのに・・・・ あら?不思議!!すごく現代的にきこえます。

しかし、このCDを聴いていたら、ウチの御主人が 「なに結婚式の音楽みたいなのかけてるんだよお〜」とのたまった。えーん。(T.T)

●コンドラシン指揮アルゲリッチのピアノ「ピアノ協奏曲第1番」

ライブ盤ならではのド迫力。ラフマニノフの協奏曲とカップリングCDです。 アルゲリッチ、すごすぎます〜。大好きです! 両手オクターブでダダダダと弾くとこなんて、すごい早さ!カッコイイ! 指の短いkeroとしては羨ましすぎです〜〜

●諏訪内晶子さんバイオリンでモルのピアノ「souvenir」

「なつかしい土地の思い出」という三曲のチャイコ収録。 この曲いいですね〜。好きだわ。憂愁のチャイコ、ここにあり!ですわ〜。 ピアノもバイオリンも素敵でした。いつか自分でも弾いてみたい曲です!