がんばれスカーペッタ捜査官!

2002.06.19

本格推理小説(つまり密室殺人とか、アリバイ崩し)がこんなに人気があって、毎月何十冊も新刊が出るのなんて日本くらいらしいです。

そんなものかなあ。

考えてみれば、雪山の中の孤立した別荘にお客が10人呼ばれて、誰かが殺されて、殺意はお客全員にある・・・・なんて、現実的ではないですよね。 でも、私はそういう本格推理、結構好きなんですが・・・。(^^;)

一方、最近の海外ミステリはどちらかというと現実的な世界が多いみたいです。 FBIや警察が活躍する科学捜査の世界。

捜査方法も、DNAや髪の毛一本からつきつめていく科学捜査の活躍ぶり、心理捜査官=プロファイラーがたくさん登場。殺人も、快楽殺人とか無差別殺人とか、とっても現実的で身の毛もよだつような感じです。今や日本でもこういう事件が他人事でなくなってきたのは嘆かわしい限りですが・・・。昔のように、チェスをしながら殺人犯人を推理したり、執事のいる豪邸に容疑者を集めて、さあ、謎解き!・・・って世界は、なぜか今は日本が御本家!?

私keroが好きな「現実派」海外ミステリ、一押しなのが、パトリシア・コーンウェルの「検屍官」シリーズなのですっ!!

コーンウェルのこのシリーズは、本屋さんなどでは新刊が出ると山積みになっているから、きっと大人気シリーズなんでしょうね〜。 一応、ご存じない方に内容を軽く紹介いたしますと・・・・。

主人公はケイ・スカーペッタというバージニア州の女性検屍局長。アメリカでは、検屍官というのは、単に被害者の死因を調べるだけではなく、捜査に積極的に参加し、時には容疑者を尋問したり、殺害現場に足を運んで証拠を自分で採取したり・・・と、かなり積極的な役割を果たすらしい。故に、スカーペッタ捜査官も、医学と法律の二つの博士号を持つらしい。すんごいエリートなんだろうなあ。

彼女は第一作目では40歳という設定である。バツイチ、イタリア系の中流階級出身。小柄で金髪、どうやらなかなかの美人らしいのですが、野心家でワーカーホリックであることも確か。女性は主婦か教師になる時代だった医学生のころから、男子学生にいやがらせされたり、苦労には事欠かなかった様子が察せられる。出世して成功した後も、セクハラ、職ハラ?のネタはつきない。

他に、スカーペッタ捜査官の姪っ子のルーシー、刑事のマリーノ警部、FBIの心理捜査官のベントンなどなど、魅力的な脇役多数。

病んだ大量殺人鬼の犯人からも、自分の職場からもプレッシャーを受けつつ、それでも鉄の意志で犯人をつきとめる! かっこいい〜、スカーペッタ捜査官!!

いや、こういうヒロイン像は、かっこよすぎてあまり感情移入できない場合が多いのですが、スカーペッタ捜査官の場合は決してきれい事だけではすまない。彼女の内面の苦悩とか、人間関係の不器用さなどが、シリーズをおうごとに上手に描写されているので、大変良いのです。

ちなみに検屍官シリーズの発表順は下のとおり。

検屍官
証拠死体
遺留品
真犯人
死体農場
私刑
死因
接触
業火
警告
審問

第1作目では、コンピューターのプログラムやハッカーの存在にに詳しく言及したりとか、新しいタイプの科学ミステリかな、と思われたのですが、読み進むうちにスカーペッタ捜査官と、それを取り巻く脇キャラに、keroはだんだんはまっていきました。キャラが一人一人どういうふうに変わっていくんだろうなーと、新作がとっても楽しみ!

シリーズ第6,7作めに入ると、だんだんスカーペッタ捜査官も犯罪の残酷さ、この世をおおう暴力に疲れてきたのか、弱気な発言が目立ってきます。

さらに第9作目の「業火」では、彼女自身の身の上でも大・大ピンチが!(ネタバレになるから詳しく書けませんが、いや、夜中にこれを読んでいて、思わずkeroは泣いちゃいましたぜえ〜〜!)

自分で自分を「頑固な中年女」と呼ぶ彼女、仕事でも完璧なスーパーウーマンなわけでなく、時には失策を犯し、私生活面でも彼氏とも上手くいかなかったり、友人に誤解されたり。

なんだか読んでいて「こんなに頑張っている人が幸せになれないなんて、世の中、間違ってるなあ〜〜。」と思わずため息が出てしまいます。だけど、欠点だらけのスカーペッタ捜査官だから、ついつい感情移入してしまうんでしょうねー。これがもっと若いヒロインなんかだったら、おそらくkeroははまらなかったでしょうなあ〜。(^^;)

このシリーズでとっても印象に残るのは、スカーペッタ捜査官ら犯罪者を追う立場の人間の抱く恐怖感です。

もし、以前逮捕した犯罪者が報復行為を仕掛けてきたら・・・。もし、家に火をつけられたりしたら・・・。身内を誘拐されたりしたら・・・。と、いつも恐怖と共にある生活は、とても読者の心に重くのしかかります。

ましてや、スカーペッタ捜査官は、そういう凶悪な犯罪者に殺された、無惨な被害者の姿を毎日見ているし、女性の検屍局長ということで、マスコミにも騒がれていて有名人なわけだし。

シリーズではスカーペッタにもしょっちゅう魔の手が襲いかかったりするので、これは故なき恐れではないところがまた一層怖い。家には何重もの防犯設備があるけれど。心配した友達の警察官マリーノが泊まりに来てくれるけれど、それでもそれでも、非常に怖い〜!!(って、読んでいる私kero自身が怖いわけですが・・・--;)

こういう恐怖が、特にシリーズ後半のあたりから現実感を伴って迫ってくるのは、きっと作者のコーンウェル自身の体験からなんでしょうね〜。

コーンウェルは、「検屍官」でベストセラーを立て続けに出版し、大成功したはいいのですが、その後ストーカーに悩まされたりして、また自分のアルコール依存症なんかもあって、家にはものすごい警備とセキュリティシステムがあるらしいです。しかも、その家とはリッチモンド、ニューヨーク、ロンドン、マリブなどにあるらしい。それも、セキュリティ上の理由かららしい。(き、きっと全部、ものすごい豪邸なんだろうなあ。)コーンウェルはヘリコプターを運転するそうなので、この豪邸間の行き来もヘリコプターで移動するんでしょうか!?アメリカの成功した有名人は、みんなこんなに大変なんだろうか、と、そういう生活とは縁のない私keroも思わず心配してしまいます。

捜査側の恐怖と同様に、犯罪に「万に一つの不幸な可能性で」巻き込まれてしまった被害者の不幸を、この小説はかなりつっこんで書いてあります。この辺は、海外ミステリとしては珍しいのではないでしょうか。平凡な人生が偶然から突然突き落とされるさまを実感出来るあたりは、ちょっと宮部みゆきさんの作品「模倣犯」を連想させたりします。

そんなこんなで「検屍官シリーズ」にはまっているkeroですが、最近コーンウェルさんは「スズメバチの巣」という別のシリーズに力を入れているらしく、なかなか新刊が出てこないのです。しくしく・・・・。次作は来年以降になるらしいという噂も。これは名訳者、相原真理子さんにも頑張ってもらわねば〜!

早く次作を読みたいぞ!コーンウェルさん、頑張って下さいまし〜。そして、がんばれ、スカーペッタ捜査官!!