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銅版画

刷ってみよう!
B.雁皮刷り

基本の刷りをマスターしたら、次は銅版画独特の刷りの方法「雁皮(がんぴ)刷り」をやってみましょう!
「雁皮」というのは、ジンチョウゲ科の植物である雁皮から作られる、ちり紙のように薄い和紙なのですが、日本の羊皮紙とよばれるほど保存性が良く、かつ細かい調子を大変キレイに刷り取る事ができます。
ただ、非常に薄いために雁皮だけに直接刷ることが(銅版画では)無理なので、普通の版画用紙に画面の部分だけ貼り込むような形をとります。
・・・・と言葉で説明してもなんだか良くわかりませんね。 プロセスを見ながら理解したほうが早いかも!

雁皮刷りってどういうこと?

作例のように、台紙は白い色なのに、画面の部分だけ和紙のうっすら黄色い色に刷り上がっている銅版画の作品を見たことがありませんか?

これが「雁皮刷り」という方法によって刷られた作品なのです。

雁皮刷りのメリットは、主に

  • 1.大変細かい調子まで刷り取りが良くなる。
  • 特に、アクアチントやメゾチントなどの調子は非常に細かく刷ることができる。

  • 2.画面の部分だけ和紙特有の美しい色になり、作品がぐっと見栄えが良くなる。
  • 特に白黒の銅版画作品の場合、台紙の白、インクの黒の他に雁皮の色が一色加わることによって作品に膨らみが出る。

・・・・等々があります。

銅版画という西洋の技法に、日本特有の文化・和紙を使うのは大変オモシロイですね。日本の銅版画の作家は、多くがこの「雁皮刷り」を使っています。

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中込洋子エッチング作品
画面の部分だけ雁皮紙が貼り込まれ雁皮の生成りの色になっている

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同じ版で、雁皮無しで普通に台紙(ハーネミューレ)
に刷ったもの

■どうやって貼り込むの?

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雁皮紙。ちり紙のように薄いが、和紙独特の強さがある。

雁皮刷りのプロセス

■雁皮紙を用意する

銅版の上に雁皮紙をのせます。雁皮は薄いので銅版が透けて見えますね。

銅版のプレートマークの内側、画面サイズを鉛筆で印をつけて、雁皮を切ります。

この時、「雁皮は水に濡れると伸びる」というのを頭に入れて置いてください。鉛筆でつけたカギじるしの、少し内側、つまり、印より少しだけ小さくなるように切ります。

版の大きさにもよりますが、この写真のサイズだと、つけた鉛筆の線が見えなくなる程度で十分です。大きいサイズほど伸び率が高くなりますので調整が必要です。

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銅版の上に雁皮紙を置きganpi05
画面に鉛筆で印をつけてganpi06
雁皮紙を切る。

■銅版を拭き上げる

基本の刷りの、「紙を切る」から「プレートマークを拭く」までと同じように、紙(台紙)を湿してプレス機を準備し、銅版にインクを詰め拭き上げます。

■水を張ったバットを用意する

大変薄いうえに、雁皮は水気で少し伸びますので、台紙に貼り込むため糊をつけたとき、しわになったりよれたりする、ってことで、大変厄介です。

いったんよれてしまったら、あきらめて雁皮を丸めて捨てるしか無いです。ちり紙を濡らした状態を想像すればわかりますよね。

そこで、あらかじめ雁皮を湿して伸ばしておいて、かつ、銅版に水でぴったりくっつけておけば作業が楽。そういう理由から、水を張ったバットに銅版を入れ、雁皮をその上に浮かせて銅版ですくいとる・・・・・

という大変手のこんだ事をやります(笑)

■バットに銅版を入れる

仕上げ拭き、プレートマーク拭きを終えた銅版を水を張ったバットに入れます。油性インクなので水で溶けたりしませんよ〜

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バットに銅版を入れる

■雁皮紙の裏・表を確認し、水に浮かす

つるつるした面が表、ざらざらした面が裏です。モチロン、銅版に向かった面を表にします!(よく間違えるかも・・・)

表を下にして雁皮を静かに水に浮かせます。

この時雁皮を水に沈めてしまうと、とーーーっても厄介な事になります。落ち着いて作業しましょう。

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雁皮を水に浮かす。
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■銅版で雁皮をすくい取る

浮いている雁皮を水に沈めてしまわないよう注意して、銅版で雁皮をすくい取ります。

この時、銅版の方から雁皮を迎えに行く・・・ようなキモチで作業するとうまくいきます。間違っても、雁皮を水の中に押し込んで銅版と合わせようとしないように。

コツとしては、親指で軽く浮いている雁皮紙を押さえ(プカプカ流れていかないように)、人差し指で銅版を持ち上げます。

水が雁皮と銅版の間に入り込んでいるので、多少の雁皮の位置のずれなどは後からでも少しは修正が効きます。

この段階では雁皮が銅版からはみ出ないように注意する程度でOK!とにかく雁皮が折れたりよれたりしないように全神経を集中しましょう。

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銅版の方から雁皮を迎えに行くような気持ちで・・・・ ganpi12
雁皮をすくい取る

■余分な水気を拭く

雁皮が、プレートマークの内側にぴったり来るようにここで微調節します。

キッチンペーパーを使って、真ん中から外側へ、雁皮と銅版の間にある水を追い出すと共に、余分な水気を拭き取ります。

これで雁皮は水で銅版の表面にぴたっとくっついて動かなくなりました。

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雁皮の位置の微調整をする
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余分な水気を拭く

■糊を塗る

ヤマトのりとボンドをあわせたものを水で少し薄めて、刷毛でスムーズに塗れる程度の粘度にします。

雁皮に糊を塗りますが、この時真ん中から外側へ、放射線状に塗っていくように。

乱暴にやると雁皮の端っこがめくれたりするので、ここでもあくまで静かにていねいに。

ウエスで糊を拭き取りますが、この拭き取り具合いかんで、台紙に雁皮が無事くっつくかどうか決まります。

「びしょびしょ」が「ぺたぺた」・・・といった感触になったらできあがり!

・・・と口で説明しても良くわかりませんね。こればっかりは実際に作業して、何度か失敗と成功を経験してみないとわからないです。

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刷毛で糊を塗る
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糊を拭く
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指で糊の感触をチェック

■完成!

糊を拭き取ったらやっと完成!長ーーーーい道のりでした.

後は基本の刷りの「刷り」の項目からと同じく、台紙をセットしてプレスするだけ!

■雁皮が台紙に付かない時は

  • 1.糊を水で薄めすぎた
  • 2.糊を拭き取りすぎた、拭かなすぎた
  • 3.プレス圧が弱かった

・・・等々の理由が考えられます。

また、ベランアルシュは紙が強靱すぎて雁皮が付きにくいので、初めての人はハーネミューレを使ってみるといいでしょう。

プロセスを見ていると、何だかとても難しそうに思えるかもしれませんが、そんなことはありません。

「面倒くさい」ことは確かですけれど(笑)

■色雁皮

雁皮は「色雁皮」など、キレイな色に染められたものもあるので、画面全体に貼り込むだけでなく部分的に貼り込んだりしてもオモシロイ効果がでます。

また、応用編として、
●雁皮紙をアクリル絵の具などで予め染めて刷る
●プレーンな生成りの雁皮紙と台紙の間に、色雁皮や、版画用ではなくても和紙、色紙、英字新聞などを挟み込んでコラージュし、一版多色刷りとして刷る方法もあります。

詳しくはこちら[1版多色刷りのいろいろ]をご覧下さい。

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プレーンな雁皮刷り
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草木染めの茶色い雁皮を使った雁皮刷り
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プレーンな雁皮を裏から
アクリル絵の具で染めて刷ったもの
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